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投資+実業で新しい価値を創出

健康を支える新ビジネスを成功させたい
豊富な金融・投資経験を武器に

山本 俊太郎

Shuntaro YAMAMOTO

ニュートリション・アグリカルチャー本部
ニュートリサイエンス事業部ウェルネス事業室長

証券会社や投資会社などを経て2015年入社、BD(Business Development)業務を経験後、2024年から室長職。コアスキルは投資・金融、製造業の経営管理/事業開発など。

主に売り手と買い手の仲介役として戦後の日本経済を支えてきた総合商社も、今や手がけるビジネスは多岐にわたっています。事業投資や事業経営もその一つで、M&Aを加速し、その経営や事業を担うことで社会に新しい価値を提供しようとしています。金融機関から転身し、投資と事業経営の最前線に立つ山本俊太郎さんに、これまでのキャリアとビジネスにかける思いを語ってもらいました。

自身の手でビジネスを動かしてみたい

グローバルな仕事をしてみたいと思いながらも業界を絞り切れなかったことから、私は新卒では多くの業界と接点を持てる証券会社に就職しました。

資金調達やM&A、投資会社でのバイアウト(企業買収)などの金融業務に幅広く携わりましたが、経験を積んでいくうちに、自分には実業の経験が乏しいことにもどかしさを感じるようになりました。自身の手でビジネスを動かしてみたい、グローバルな事業を手がけてみたいという思いが募り、転職を決意。それまでの10年にわたる金融機関での経験を活かしながら、幅広い領域でのビジネスに携わることができる三井物産に入社しました。

最初に配属されたのは、食料本部糖質醗酵部フードサイエンス事業室(現・ニュートリション・アグリカルチャー本部ニュートリサイエンス事業部ウェルネス事業室)でした。食品には栄養を摂取し生命を維持する1次機能、食事の味を楽しむ2次機能、そして体のさまざまな役割や働きを調節する3次機能という三つの機能があるとされています。

当時、より付加価値の高い2次・3次機能に関わる機能性食品原料をフードサイエンスと定義づけ、保有していた関係会社を軸に同事業を成長させていく事業戦略を掲げていました。出資する関連会社の運営支援や新規投資案件の創出に携わり、事業の収益性を上げるにはどうしたらよいか。そして、それを妨げている要因は何かといった、出資先の企業が抱える課題について議論し、解決に向けて伴走していました。

愚直に出資先に寄り添い信頼を勝ち得る

2年後にはエビデンスに基づいた信頼できる未病対策ソリューションという新領域に着手することとなりました。その第一弾として、米国のソーン・ヘルステック(以下ソーン社)という高機能サプリメントを製造するメーカーを、パートナー企業と共同買収する投資案件を担うことになりました。

ソーン社は豊富な科学的エビデンスに裏付けられた製品と、医療従事者経由の強固な販売網、個々人に最適化した栄養を提供する新ソリューションなどを持つ成長ポテンシャルの高い企業でした。買収を機に同社の経営により深く関与することになり、私は同社に出向して現場から事業成長を支えたいと願い出ました。出張して会議に出るだけではわからない事業と経営のリアルに携わり、海外での実業経験も積めるまたとない機会だと思えたからです。

念願が叶い、私は渡米してソーン社に出向することになりました。しかし、同社で働く人たちにとって、突然主要株主になった海外の企業からやってきた私は、何をしようとしているかよくわからない人物だったのかもしれません。同じゴールを目指す仲間と認めてもらうまでには時間がかかりましたし、多くの苦労もありました。

一方、たとえ時間がかかっても、ソーン社の成長と事業価値を大切に考え、そこに自分がどう貢献できるかという視点を忘れずに、丁寧なコミュニケーションを重ねようと決めてそれを愚直に実行していました。工場で人手が足りないときには、率先して製造ラインにも立ち、現場を理解しようと努めました。 

投資先企業を
米・ナスダック市場に上場させた

そうするうちに少しずつ頼りにされるようになりさまざまな役回りを担うこととなり、三井物産のアセット・ネットワークを最大限に活用した事業開発のほか、CFO(最高財務責任者)の下で実務を担う財務の責任者としてさまざまな経験をさせてもらうことができました。PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション、M&A成立後の統合プロセス)だけでなく、CFOを補佐して資金調達や銀行・保険会社への対応、他社の買収やナスダック上場といった出向時には想定していなかった事態も浮上して、さまざまな調整や交渉に奔走しました。

最終的には、ソーン社を買収したいという企業が現れたことで、三井物産は持ち株をすべて売却する経営判断を下し、私の任務は終わりました。

今でも忘れられない思い出となっているのは、私がソーン社を去ることが決まったとき、CEOが「わが社に残らないか?」と慰留してくれたことです。当時の私がソーン社をリードする形で同社製品のアジア展開を目指していたことから、「グローバル事業を続けたいならサポートする」とまで言ってくれました。そこまで信頼を寄せてもらえたこと、この企業の成長に関わることができたことを誇らしく感じました。

この5年弱の出向期間では数多くの得がたい、そして忘れがたい経験を積み上げることができ、私のキャリアの中でも最も心に残る仕事になりました。

ソーン社の売上は買収時の4倍以上に増え、上場も果たしたことから、この売却は三井物産に大きな利益をもたらしました。しかし、ソーン社での仕事すべてに満足できたわけではありません。シンガポールで三井物産とのジョイントベンチャー(共同企業体)を設立し、ソーン社の高品質なサプリメントの販売をアジア地域でも展開しましたが、ほぼ無名の米国のサプリメントをアジアで流通させることは簡単ではありませんでした。ブランド力が届かずに撤退を余儀なくされ、三井物産とのシナジーを活かした海外展開を成功させられなかったことは、心残りとなりました。 

シンガポール出張時に投資先幹部との打ち合わせで(2024年撮影)

新事業を成功させ、
末永いパートナーシップを築きたい

帰国後、ソーン社との経験を踏まえ、長く投資先と伴走しながら新規事業を成功させたい――そんな思いを強くして、ニュートリサイエンス事業部に帰任した私が取り組んだのが、シンガポールの漢方薬メーカーである「ユーヤンサン」への投資です。

ユーヤンサンは150年近い歴史と確かな技術を持ち、シンガポールはもちろん、マレーシアや香港でも高い知名度を持つ東南アジア最大の漢方薬メーカーです。医薬品から食品まで幅広く生薬を使った製品開発にも積極的で、同社へは三井物産がすでにファンドを通じて出資をしていましたが、新たにロート製薬をパートナーとして再出資し、本格的にビジネス創出に乗り出すことになったのです。

今度は成長市場たるアジアで確かな顧客基盤やブランドを持つ企業と組んで、長期的な視野で新ビジネスを成長させていきたい――そう考えていた私にとってユーヤンサンはとても魅力的な企業であり、絶対に成功させるという気概で取り組んでいる案件です。

現在は主にPMIのフェーズではありますが、マーケティングの強化や近隣のアジア諸国への展開、工場での製造効率化など複数のプロジェクトを立ち上げて走り始めたところです。今後はロート製薬のノウハウ・技術を活用した製品開発や世界における強い販売網での展開、三井物産がパイプを持つ機能性素材を活用した漢方製品の開発や三井物産の病院事業(西洋医学)との提携なども視野に入れています。

ユーヤンサンが蓄積してきた伝統的な漢方の知見と、三井物産やパートナー企業による技術や素材などを組み合わせることで、人々の健康やウェルビーイングをサポートする新しいソリューションを生み出していきたいと意欲を燃やしているところです。

キャリア

2005年 大学卒業、証券会社に入社。上場企業のファイナンスやM&A業務等に従事。
2012年 2年間のアメリカ留学を経てMBA取得。
その後、投資会社でのプライベートエクイティ投資経験を積む。
2015年 三井物産入社。食料本部糖質醗酵部フードサイエンス事業室で新規投資案件や子会社管理などに携わる(2016年から組織改編でニュートリション・アグリカルチャー本部ニュートリサイエンス事業部へ)。
2019年 米ソーン・ヘルステック社に出向、PMI・モニタリング体制の構築、CEO/CFO補佐、NASDAQ上場準備、アジア展開など事業開発などにあたる。
2023年 ニュートリサイエンス事業部に帰任、ウェルネス事業室配属。シンガポール・ユーヤンサン社の出資案件に取り組む。
2024年 ウェルネス事業室長に就任。
ニュートリション・アグリカルチャー本部のウェルネス領域(未病・健康)における投資案件管理と新規事業開発を指揮。

自分の可能性を限定せず、
チャレンジを続けたい

私は証券会社・投資会社時代に業務を通じて多くの企業に関わり、三井物産に来てからも別の企業のビジネスに参画してきました。多くの企業を見てきた私が改めて思うのは、三井物産には向上心が強く、強烈な個性を持つ人がとても多いということです。経験豊富な先輩方や同僚はもちろんですが、若手や新入社員も何かしら尊敬できる点や、率直にすごいと思える強みを持っているのです。

どの企業や業界にも共通することではありますが、三井物産は特にビジネス環境の変化が大きく、働く人は予期せぬ事態に数多く直面することになります。こうした変化を恐れることなく、新しい環境や学びを楽しめるタイプの人が活躍できる職場だと感じます。

私自身、三井物産でたくさんの刺激的な投資案件や事業開発に携わり、Business Development(BD)担当としてあこがれていた実業の世界でのチャレンジを楽しんでいます。これまでは未病・健康領域での企業投資・事業運営でキャリアを重ねてきましたが、改めて社内を見回せばたくさんのセクションがあり、その多様なビジネスに興味が尽きることはありません。

今は管理職となり、ベテランと言われる年齢に差し掛かってはいますが、今後も自分の可能性を限定することなくどん欲にチャレンジを続けていきたいと思っています。

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